最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)460号 判決 1967年12月15日
主文
原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人早川浜一、同早川淳の各上告理由について。
原判決は、次の諸点において違法があるというべく、上告人敗訴部分を破棄すべきである。
原判決の判示するところによると、訴外春日商工株式会社(以下春日商工という。)は、昭和三二年八月二七日に成立し、同三三年六月一七日設立登記、同三三年九月二〇日解散登記がされているが、春日商工は、同三二年頃までに上告人に対し合計五十数万円を貸し付けたというのである。しかしながら、会社は設立登記によつて成立する(商法五七条参照)から、春日商工の設立登記が同三三年六月一七日である以上同三二年八月二七日成立した旨をいう原判決は、実体法の解釈をあやまつているといわざるをえない。
つぎに、原判決は、春日商工は解散し、その後は、被上告人が清算人となつて、上告人と交渉し、(イ)会社の営業存続中の残債権についてこれを被上告人に譲渡し、(ロ)その後もなお従来と同様の方法により上告人に対し貸し付けあるいは日掛の方法により弁済をなさしめていたが、同三四年四月一三日当事者間において上告人の債務を元利合計金六七万六〇〇〇円と協定して原判示の約束手形一通を上告人から春日商工の清算人たる被上告人に対し差し入れた。(ハ)そして、本訴提起後被上告人代理人は、上告人に対し、同三八年一〇月一七日春日商工から被上告人に対する右貸金債権の譲渡を通知したなどの諸事実を認定したうえ、(ニ)前記債権の譲渡は、春日商工の実態、清算人が被上告人ひとりであること、春日商工の解散後の実情に照らせば、とくに会社、会社債権者に不利を与えるものでなく、無効とはいえないと判示している。
しかし、(ロ)の部分について検討するに、右判示事実は、被上告人が、個人として貸付等をしたのか、あるいはまた春日商工の清算人として貸付等をしたのか、原判決の判文上不明確である。もし春日商工の清算人としてした意味とすれば、春日商工は、すでに解散しており、清算の目的の範囲内においてのみ、権利能力を有するにとどまり(なお、清算人の職務権限についての商法四三〇条一項、一二四条一項参照)、したがつて、解散による清算中の会社が、解散前と同様に、当然に貸付等を継続してすることができると解することはできず、右貸付等が清算事務の遂行に必要であつて会社の清算の目的の範囲内に属する理由を明らかにすることを要するものというべきところ、この点について説示を欠く原判決は、理由不備の違法がある。
また、(イ)および(ハ)の部分について検討するに、かりに株式会社の清算手続が清算人ひとりでこれをすることができるとしても、その清算人は、特段の事情のないかぎり清算会社と取引することは許されず、これに違反してされた取引は無効と解するのが相当であるところ(商法四三〇条二項、二六五条参照)、原判決は、右の特段の事情について判示することなく、本件債権譲渡を有効であると説示しているのは、違法である(原判決のいう春日商工の会社の実態等についての説示は、いまだもつて特別の事情とはいえない。)。
原判決は、以上の諸点について違法をおかしており、原判決の違法をいう論旨は、結局、理由がある。
よつて、民訴法四〇七条一項により、原判決中、上告人敗訴部分を破棄して、本件を名古屋高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)